【競艇選手の卵】ボートレーサー養成所は厳しい試験を合格した精鋭集団

ボートレース選手になるためには、必ず入らなければならない施設があります。それがボートレーサー養成所です。合格するのも狭き門なら、入学後も厳しい訓練が行われることで知られ、ボートレースで戦うための技術を徹底的に鍛えられることになります。
かつては山梨県の本栖湖に養成施設があり、そのころの名称は「本栖研修所」でした。名作漫画『モンキーターン』では、この本栖研修所での研修風景が描かれています。
その後、2001年に現在の福岡県柳川市大和町に移転し、「やまと競艇学校」として再スタート。競艇がボートレースの通称を採用して以降は、「ボートレーサー養成所」という名称をメインに使用しています。
現役選手も毎年の定期訓練のために訪れるボートレーサー養成所。この場所がどのような施設で、どういった教育を施しているのか。本記事では、それぞれのポイントから解説していきます。

目次


ボートレーサー養成所はとてつもなく狭き門で試験内容も多彩

ボートレーサー養成所は、プロのボートレーサーを育てる機関です。入学試験は3段階に分かれており、これだけでも明確な選抜工程が存在することが見て取れるでしょう。
第1次試験は学科試験と体力試験が実施され、学科試験は国語・数学・理科・社会の4教科、体力試験は柔軟性・筋力・瞬発力を計測されます。
この第1次試験は一般試験の内容であり、別個に特別推薦枠も存在します。これはスポーツ推薦とも呼ばれるもので、ほかの競技ですばらしい成績を残したアスリートが申請でき、人物試験を受けることになります。
第2次試験では、これら一般試験組と特別推薦組が合流し、適性試験と体力試験が実施されます。適性試験では操作適性・反応力・注意力・調整力・スポーツビジョン・心理判断などをテストし、体力試験では全身持久力・筋持久力・筋力・瞬発力・敏捷性・柔軟性を計測します。いずれも第1次試験よりさらにハードな内容です。
しかも、この第2次試験には回数制限があり、欠席や辞退を含めて5回までしか受験できません。現役で活躍する一流選手のなかにはラストチャンスの5回目で通った苦労人もおり、まさしく運命の分かれる試験です。
第3次試験が最終試験であり、最終チェック的な意味合いが強いものになります。面接を主とした人物試験、眼科・耳鼻咽喉科・外科・内科・泌尿器科の身体検査、視覚・視野・音感・運動神経の適性検査の3つです。ここで弾かれるのは相当運が悪い人になるでしょう。


ボートレーサー養成所の合格倍率はなんと30倍

ボートレーサー養成所が多重のチェックを設ける理由のひとつとして、ボートレースのプロになるという道が非常に魅力的であり、多くの入所希望者が殺到している事実が挙げられます。
このため、先にあげた入所試験の合格倍率はなんと30倍にも達します。単純に言ってしまえば、30人に1人しか通らない試験であり、しかも受験生はいくらかの記念受験を含めたとしても、全国から集まった体力自慢で構成されています。
しかし、体力だけではダメですし、その肉体能力にしてもあらゆる要素を要求されます。ボートレーサーとはそれだけタフな商売といえるでしょう。


ボートレーサー養成所は応募資格も厳格

ボートレーサーの養成機関であるボートレーサー養成所ではありますが、誰でも入所できるわけではありません。年齢要件を始めとして、厳格な内容が定められています。以下にまとめてみました。

● 年齢:15歳以上30歳未満
● 学歴:入所日において中卒以上
● 身長:175cm以下
● 体重:[男子]49kg以上57kg以下/[女子]44kg以上52kg以下
● 視力:両眼とも裸眼で0.8以上(コンタクトなどは不可)
● 弁色力:強度の色弱ではないこと
● 聴力ほか:選手養成訓練を行うのに支障がないこと
● その他:下記の内容に該当しないこと
・禁錮以上の刑に処せられた者
・モーターボート競走法に違反して罰金以上の刑に処せられた者
・選手養成訓練中に成績不良または素行不良により養成を取りやめられた者
・反社会的勢力との関係が疑われるなどモーターボート競走の公正を害するおそれがある者
・上記において、その恐れがあると認められるに足りる相当の理由がある者

公営競技は、長い不正行為との戦いでもありました。反社会的勢力を場内から追放し、たゆまぬ努力によって清浄化を進めてきたといえます。
そうした観点から、公正競走を害する恐れのある人材に関しては、入所時点でこれを認めないという方針を取っています。


ボートレーサー養成所のカリキュラムは非常に厳しい

「基本は礼と節。不屈のプロフェッショナル精神を育成する全寮制教育」

ボートレーサー養成所がこのように教育訓練方針を紹介しているように、養成所では全寮制によって完全な管理教育を実施しており、自衛隊さながらの厳しいカリキュラムが組まれています。
入所から半年は第2小隊、残りの半年を第1小隊という配属で暮らすのも、規律の厳格さを感じさせます。
1年間の実技および座学の訓練時間も明確に定められており、操縦実技は950時間、整備実技は550時間、学科座学は280時間、その他もろもろで140時間です。ここからもわかるとおり、ボートレーサーにとっては操縦技術と整備技術の2つこそが最重要です。


ボートレーサーは操縦が上手くなければならない

木製のボートで水面を滑走するボートレース。体感速度は120km/hにもなると言われ、確たる技術と度胸がなければ務まりません。
このため、基礎の基礎から徹底的に操縦技術を鍛えられます。競馬や競輪と違って、入所前に似たような技術を習熟する機会も少ないため、このボートレーサー養成所での訓練こそが生命線です。
そして、文字通りに生命に関わる内容でもあります。自分や他人の命に関わる事故を起こさないためにも、単独での航走から複数航走への応用を実施し、さらに実戦さながらのリーグ戦を戦っていくのです。


ボートレーサーは整備が上手くなければならない

ボートレーサーは操縦が上手いだけでは務まりません。開催ごとに違うモーターをあてがわれ、さらにプロペラも持ちペラ制度が廃止されたことから、双方ともに都度調整しなければなりません。
命を託す相棒としてのモーター、プロペラ、加えてボートについて、渾然一体となるように整えていくのが整備です。ボートレーサー養成所での訓練が整備に相当な時間を割いているのも、それだけボートレースにおける整備の要素が大きいことを示しています。
整備技術の妙があるからこそ、ボートレーサーはベテランになってからも第一線で食っていける職業としての特徴が強く出ています。もちろん体力はいつになっても重要ですが、円熟の技は操縦に、そして整備に神がかった磨きを与えるものです。


ボートレーサーには別のスポーツからの転身もある

こうした「食える商売」であり、「夢を見られる仕事」であり、そして「希望を届けられるアスリート」であるボートレーサーには、多くのプロフェッショナルが転身を果たしてきました。
ほかの競技でビッグマッチを制するなどの栄誉を持っている選手も数多く、「そんな経歴があるなんて」と驚くこともしばしばです。
この点で似ているのは競輪で、特に有名なのはスピードスケートから転身してKEIRINグランプリを制するまでにいたった武田豊樹選手でしょう。1974年生まれの武田選手は、なんと2002年のソルトレイク冬季オリンピックの代表として選ばれ、500mで8位に入賞しています。なお、このときに同競技で清水宏保選手が銀メダルを獲得しました。
現役のボートレーサーとしては、世界空手道選手権優勝という華々しい実績を持つ藤原菜希選手が特にビッグネームです。
ほかにも、バイク近畿選手権で優勝の谷川祐一選手、国際A級スーパークラスライダーの井内将太郎選手、ボクシング日本ミニマム級第3位の岩橋裕馬選手、シンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)日本代表候補の計盛光選手、水上バイクワールドファイナルズ世界大会プロスキーGP第1位の國分将太郎選手などが、2021年7月現在も現役で活躍しています。


野田昇吾選手が74年ぶりにプロ野球選手から転身!

そうした中、驚きのニュースが各スポーツ紙に飛び込んできました。プロ野球、元埼玉西武ライオンズの野田昇吾投手が、ボートレーサー養成所に合格したという知らせです。
人気声優の佳村はるかさんと結婚したことでも話題になった野田昇吾選手は、残念ながら結婚を発表した年である2020年に戦力外通告を受けました。以後は音沙汰がありませんでしたが、2021年に誰もが寝耳に水の転身となったわけです。
野田昇吾選手はスーパーマーケットでアルバイトをしながら、過酷な減量に挑みました。そもそも野球という競技は体格勝負な面もあり、ボートレーサーになるのには向いていません。
しかし、野田昇吾選手は現役時から小兵の左腕として有名であり、身長が166cmしかない小柄な体格の持ち主でした。体重も現役時は75kg。参考にメジャーリーグで活躍する大谷翔平選手と比較すると、こちらは身長193cmの体重102kgで、違いは歴然です。
そのハンデを逆手に取ったとはいえ、難関極まるボートレーサー養成所の試験です。特別推薦枠であっても、簡単に合格できるものではありません。
ただ、野田昇吾選手はやり遂げる力を持っていました。体重を75kgから51kgまで-24kgもの成果を達成する大幅減量に成功。4日間に及ぶ選考試験を駆け抜け、見事に30倍の難関を勝ち抜いたのです。
野球選手からボートレーサーへの転身は、なんと1947年の早瀬猛選手(競艇登録名:早瀬薫平)以来74年ぶりという快挙です。
ボートレーサー養成所への入所は始まりに過ぎず、無事に訓練を勝ち抜くのもまた大変ではありますが、ぜひとも大成してほしい存在といえるでしょう。


ボートレーサー養成所からボートレースの夢は始まる

ボートレーサー養成所は、入所してからも厳しいカリキュラムがあり、進級試験があり、そして修了試験があります。これらに不合格になった場合、強制退所処分となってしまうほど、ボートレーサーへの道は険しいものです。
しかしながら、そうした苛烈な訓練をくぐり抜けてきた精鋭だからこそ、ボートレースというタフ極まりない稼業が務まるともいえるでしょう。活躍し続ければ、まさしく生涯食える生業です。
多くの人の夢を乗せて走るボートレース。その夢が始まる場所であるボートレーサー養成所では、今日も多くの若人が未来のスターレーサーを目指して学びに励んでいます。


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