【公正競艇】一流ボートレーサーも陥った持続化給付金の不正受給の罠

2021年、世界はなおも新型コロナウイルス(COVID-19)の強い影響下にあり、致死率の高い変異株も含めて人類は戦いを続けています。
そのような中にあって、各国政府は市民生活を守るための施策を様々に打ち出し、日本国もまた例外ではありませんでした。
しかしながら、新型コロナウイルスによって影響を受けた人が前提の給付金に関して、まるで趣旨に反する形で給付金を受け取る、いわゆる不正受給が大きく問題となりました。非常時で審査が甘かったこともありますが、そうした制度の不備をつく形で、結果的に不正に利得を得ようとした人たちがいたといえます。
そして、その中には、ファンたちを熱狂させてきたボートレーサーも含まれていました。本記事では、その概要について解説していきます。

目次


問題となった『持続化給付金』の不正問題を改めて紐解く

今回、いったい何が問題となり、どういう状況で不正受給という状況が生まれ、そこに有名なボートレーサーまでもが絡むことになったのか。全体のあらましを知ることは大切です。簡単に流れを見ていきましょう。

持続化給付金の本来の趣旨

そもそも、持続化給付金とは、どのような給付金であり、どういった状況での申請が適切とされたのでしょうか。
持続化給付金とは、中小企業庁が中心となって取りまとめた、新型コロナウイルスで打撃を受けた事業者の救済策のひとつでした。
持続化給付金の公式ウェブサイト(https://jizokuka-kyufu.go.jp/)にもあるとおり、「【中小法人・個人事業者のための】」という枕詞がつく給付金制度であり、中小の法人のみならず、個人事業主の救済まで視野に入れた幅広いものだったことがわかります。
問題の遠因となったのは、ここで「個人事業主」も対象だった点でした。新型コロナウイルスによって打撃を受けた中小企業や個人事業主は、もはや一刻の猶予もならない存在が多く存在しました。そんな人々をいち早く救済するため、審査を甘くし給付を先んじて行っていくスタンスで、文字通り「事業を持続化させるための給付金」として運用されたわけです。
一方で、ボートレーサーは各ボートレース場との雇用関係にはありません。あっせんを受けて競技に参加する自営業に該当します。
不正受給問題が生じたのは、上記のような持続化給付金の背景があったことを覚えておくといいでしょう。


ボートレースは緊急事態宣言中も開催していた事実

ボートレースに限らず、競馬、競輪、オートレースと存在する日本の公営競技。これらはコロナ禍の中で、大きく命運が分かれました。
競馬やボートレースはどうにか無観客開催などでほとんどの開催が継続できたものの、JKAが所管する競輪とオートレースは対策が遅れ、大きく開催中止期間が生じた形となります。
これら競輪やオートレースの選手たちは、当然収入がなくなる時期が生まれたわけです。持続化給付金の設立趣旨に沿った給付対象といえるものでした。
一方、競馬の騎手とボートレースのレーサーは、これらコロナ禍の影響によって収入減が生じたとはいえませんでした。ボートレーサーと中央競馬の騎手に不正受給問題が生じたのには、こうした経緯がありました。


背後に暗躍する税理士の影

ボートレースと中央競馬の不正受給が広く拡大した背景には、持続化給付金の申請手続き代行の手数料ビジネスで一儲けしようとした税理士の存在がありました。
JRAのほうは有力馬主ながらも、これを罰する規定はないためにお咎めなし。持続化給付金の不正受給が問題になった際にも対処する旨が記載されていたとのことですが、結局は丸投げで見捨てた形になるのでしょうか。
そして、ボートレースのほうでも、個人事業主の性格がより濃いボートレーサーたちに近づく税理士が一部でいたと見られます。甘い言葉に耳を傾け、つい申請して100万円をもらおうか、という気持ちになってしまった選手がいたわけです。
また、そうして得た情報を仲間うちで共有し、実際に申請してみようという流れが生まれました。仲間からの情報ともなれば、どうやら問題ないらしい。そう解釈して申請に踏み切った選手が多数いることも、日本モーターボート競走会と日本モーターボート選手会の調査でわかっています。
このような状況に関して、日本モーターボート競走会と日本モーターボート選手会は、断固たる姿勢で臨みました。数ある公営競技の中にあって、最も公正さには神経を尖らせているボートレースです。このような状況は看過できないものでした。


日本モーターボート競走会と日本モーターボート選手会が発表した調査結果報告

こうして実行されてしまった、多数のボートレーサーたちによる持続化給付金の不正受給。実際にどれほどの選手が関与してしまったのでしょうか。ボートレーサーの持続化給付金の不正受給に関わる調査結果報告を、日本モーターボート競走会と日本モーターボート選手会が共同でアップロードしています。

[引用]
(2)受給者数 215名
(3)受給総額 2億1,473万円
(4)返還者数 215名(手続中含む)
(5)返還総額 2億1,473万円
(6)受給申請時期 令和2年5月1日~令和3年2月15日
(7)受給申請理由
[1]フライング又は出遅れによる 24名
[2]私傷病及び公傷等による 43名
[3]感染者や濃厚接触者等に指定され、或いは開催中止や打ち切りとなり、出場あっせんに影響を受けたことによる 67名
[4]感染症拡大予防等のため、競走不参加、前検不合格、途中帰郷となったことによる 68名
[5]ボートレース以外の事業収入等による 13名
[/引用]
出典:ボートレーサーの持続化給付金受給に関する調査結果報告について – BOATRACE公式 https://www.boatrace.jp/owpc/pc/site/news/2021/04/13864/

このように、非常に多くの対象者が出てきてしまいました。フライングや出遅れといったスタート事故は、もちろんボートレース本来の制度です。この出場停止は、コロナ禍とは一切関係がありません。
では、そのほかのあっせんに影響を受けた場合はどうか。これについても、追加あっせんを優先して振り分けた実績があり、実際の収入減にはつながっていないはずでした。
結果として、多数の選手が信頼を損ねる結果となり、競走会は罪状の重さに応じて出場停止期間を付与することとなりました。


不正受給が疑われる有名選手/井口佳典

井口佳典選手は、三重の絶対的なエースと呼ぶべきトップレーサーです。2012年の賞金王決定戦に出場した際には「King of Galaxy(銀河の王者)」という異名がつけられたことから、好んでこの呼び名を使うファンもいます。
昨今の三重支部はSG戦線で活躍するタレントが大勢育っていますが、その先頭に立ち、実際に師匠としても役目を果たしてきたのが、井口佳典選手といえるでしょう。
自身もSGを6回、G1を14回制しており、レジェンドクラスの活躍をしている大選手であることに疑いの余地はありません。
しかし、そのような井口佳典選手が、今回の騒動で不正受給をしたと考えられています。褒賞懲戒審議会において2ヶ月の出場停止処分が課され、時期的にも特にほかの理由が見つからなかったためです。
このため、井口佳典選手はボートレースオールスター2021(若松競艇SG)、グランドチャンピオン2021(児島競艇SG)という、2つのSG競走の欠場を余儀なくされました。繰り上がりになる選手にとってはチャンスですが、井口選手にとってはまさしく大打撃です。
何より、億を稼ぐクラスのレーサーである井口佳典選手が、いわば「100万円のためにこすっからい手を使った」ことが、ファンにはショックとして受け止められました。
もちろん、ここでも手数料目当ての税理士が暗躍したと考えられますが、うかつな行動だったといわざるを得ないでしょう。
それでも2021年6月現在で返還を実施し、7月からは休みも明けるため、あっせんが入って出場予定欄が埋まり始めています。この出来事を強く戒めとして、良い競走を見せてもらいたいものです。


不正受給が疑われる有名選手/山田康二

佐賀の山田康二選手もまた、3ヶ月の出場停止が突然発表されたため、持続化給付金の不正受給を行ったのではないかと考えられている一流ボートレーサーです。
現代のボートレースを代表する賞金王、峰竜太選手の弟子でもある山田康二選手は、師匠のもとで見事に育ち、G1を制するまでになりました。佐賀支部の主力選手のひとりであり、ファンの期待も大きい存在です。
2021年も1月の大村と3月の唐津の一般競走で2回の優勝を遂げており、再びのビッグタイトル奪取へ向けて調子を上げてきていたところでした。そんな中で、今回の持続化給付金の不正受給騒動が持ち上がり、山田康二選手への出場停止処分が課されたのです。
出場停止処分はその内容と深刻度によって、停止になる期間の長短が分かれています。その幅は最短1ヶ月から最長4ヶ月までのため、3ヶ月出場停止の山田康二選手は2番目に重い処分を受けたといえます。
こうしたことから、2021年6月現在、なおも次回以降のあっせんは入っていません。7月上旬が過ぎるころには再び出場予定が埋まり始めるかもしれませんが、ファンとしてはどうにも心配の種が尽きない日々を送っています。
ただ、個人事業主として責任ある立場で選んだ道であり、その深刻さから考えても強く反省しなければならないのは否めません。反省の後に正しく歩み始めること。そして、それを受け入れるのもまた、ファンとしてできる行動になるでしょう。


ボートレースは競艇以上にクリーンで公正なスポーツに進み続ける

今回、日本モーターボート競走会と日本ボートレース選手会が下した処分は、非常に厳しいものでした。しかし、これだけの大ナタを振るわないと、世間の皆様に申し訳が立たず、公正な競技を維持できないという意志が垣間見えます。
この点が、日本中央競馬会(JRA)とは大きく差がついた点でした。JRAは騎手や厩務員といった競馬関係者が不正受給を行ったことを知ったものの、結局は断固たる姿勢で彼らにペナルティを加えることはありませんでした。日本最大の公営競技であり、一部にはその腐敗した構造や体質があるとささやかれているだけに、こうした対応は不信感を募らせる結果となりました。
処分発表直後のG1競走、天皇賞(春)において、問題の中心にいたと考えられる税理士がオーナーを務める競走馬が優勝を果たしたことも、半ば異様な雰囲気をファンの間に生んだのも事実です。この馬主についても、資格取消などの処分は成されていません。
一方、ボートレース(競艇)はさらなる公正さ、クリーンな競技性をアピールすることに成功したといえます。インターネット回線の高速化に加え、巣ごもり需要での売上増が進みながらも、決して驕ることなく処分を断行できた点に、称賛の声も聞かれました。
ボートレースは、決して不正な手段での利得の授受を許さない。このような立場を明示できたことは、今回の持続化給付金の不正受給騒動における、唯一の収穫だったのかもしれません。


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