【豆知識】事故点・事故率とはいったい何か?~減点などの仕組みを整理してわかりやすく解説します

ボートレース(競艇)の中継を見ていると、必ず耳にする言葉があります。それは例えば「事故点」であったり、「事故率」であったり、「不良航法」であったり、「減点」であったりするでしょう。

これらはいずれも「ボートレーサーが起こした競走に関する事故」という部分に紐付けられ、当該開催や半年に1度やってくる級別判定で重要な意味を持ってきます。

当記事では、この事故点に関する知識を共有し、ボートレースがより楽しく、また興味深く感じられるように各用語を解説していきます。

目次


事故点とは何か

事故点は、選手が競走に関連して規程に違反した行動をとった際に付与されるものです。この事故とはフライングや出遅れといった「スタート事故」が最も一般的ですが、そのほかにも競走中の妨害失格や、規定で禁じられている不良航法、競走前の待機行動違反にも適用されます。

事故点の短期的なデメリットとして、当該開催での予選通過の可否にかかわります。ボートレーサーは予選期間中の着順を得点に換算し、得点率上位の選手から予選通過を決めるとともに、準優勝戦ではインコースに配置されていくためです。

もし、事故点が発生した場合、この得点からの減点措置が取られます。ボートレース中継を見ていると、「○レースの△△選手は不良航法のために10点の減点」などとアナウンサーが伝えてくれますが、この内容が節間における減点措置が与えられたことを意味しています。

また、事故点は長期的に見ても不利益をもたらします。それがボートレーサーにとって大きな障壁となりかねない事故率です。


事故率の計算方法

級別の決定には、一定の事故率以下であることが求められます。頻繁にクリーンな競走を妨害するような選手は、決してA1級やA2級といった上位クラスに入ることができず、すなわち大レースに出場をあっせんされることが不可能になるというわけです。

では、この事故率はどのように計算するのか。これはBOATRACE公式で計算式が公開されていますので、引用してみましょう。

【事故率の計算式】
 事故点の合計÷出走回数=事故率

積み重ねた事故点を、走った回数で割る。非常にわかりやすい内容です。ただし、事故点そのものの設定はとても複雑で、優勝戦などの大一番では点数が重くなるなどの変動もあります。代表的な事故点の要件を以下に並べてみましょう。

● 優勝戦でのスタート事故:-30点
● 優勝戦以外でのスタート事故:-20点
● 妨害失格:-15点
● 選手責任の失格および欠場:-10点
● 選手責任外の失格および欠場:+-0点
● そのほかにも細かな規程あり

スタート事故は、「フライング(F)」および「出遅れ(L)」を含みます。さらに、失格には「転覆」「落水」「沈没」「不完走」を含みます。選手の責任に帰される事故に関しては、必ず事故点として減点措置が取られるといえるでしょう。

級別審査期間に事故点が積み重なると、事故率が上昇していきます。事故率が0.70を突破してしまうと、次期のB2級が確定してしまいます。


事故点にかかわる用語を総解説

ボートレースには厳格なルールが存在し、事故点に関するものも非常に細分化されています。それは「選手がしてはいけないこと」が明確に決められているからであり、ここに定められた公正が守られることで、健全なレース運営ができるということになります。

では、どういった内容が競走で認められていないのか。各種のカテゴリ別に用語ベースで内容を確かめていきましょう。


スタート事故に関するもの

【フライング(F)】
ボートレースでは、フライングスタート方式を採用しています。これは競馬、競輪、オートレースといった日本のほかの公営競技とは違う特性といえるでしょう。

フライングスタート方式では、各艇が決められた場所から一斉にスタートすることはありません。それに近しい概念として「ピット離れ」がありますが、あくまでも競走が本格的にスタートするのは、各選手が進入コースを決めたあとのホームストレートからです。

選手たちはスタートまでのタイミングを知らせる大時計のみを頼りに、コンマ01秒を競って良いスタートを決めようとします。しかし、定められた時間より一瞬でも早く出てしまえば、それは不公正なスタートであり、当該選手は競走から除外され、その選手絡みの舟券は返還されます。これが「フライング」です。

当然、フライングによって舟券の売上はパァになってしまい、主催者は大打撃です。また、フライングしてスタート利を得た選手の台頭によって、ほかの艇が不利益を被る確率も高くなります。フライングは公正な競走を妨げ、ファンにとっても予想が狂う結果をもたらします。ゆえに、非常に高い事故点が設定されているとともに、一定期間の出場停止が課されるのです。

【出遅れ(L)】
フライングスタート方式では、規定の時間から1秒以内にスタートを切る必要があります。規定の時間よりも早くスタートを切ってしまうのがフライングなら、規定の時間から1秒経ってもスタートできない場合も、フライングと同等に速やかに競走から除外され、その選手絡みの舟券が返還されます。これが「出遅れ」です。

ボートレーサーは、古くは本栖研修所、新しくはやまと競艇学校、およびボートレーサー養成所で厳しい訓練に耐えてきたプロフェッショナルたちです。勇み足としてのフライングをすることはあっても、1秒以上も加速のタイミングを誤る出遅れをすることは、かなり稀なケースといえます。

ただ、それでも出遅れは起きるときには起きます。ボートレーサーも人の子。いつでも超人的な秒読みができるわけではないからです。

また、出遅れに関しては、選手責任外での出遅れが発生するパターンも多くなっています。特に海面のコースの場合、浮遊物がプロペラに巻き付いて加速できず、やむなく出遅れになってしまうケースです。これは選手の操縦や整備に問題はないので、選手責任外という判定になり、事故点がつくことはありませんし、出場停止も発生しません。

選手責任、および選手責任外については、後段の別項目で解説します。


競走中の事故に関するもの

【待機行動違反】
レースに参加する6艇が係留されているピットを離れ、競走水面に出てスタートの瞬間を待つ時間。およそ1分40秒ほどのこのときを、「待機行動」といいます。その動きのなかで規定違反を犯すことで、「待機行動違反」が取られるわけです。

待機行動違反については、ファンからはわかりにくいものではありますが、選手にとっては死活問題です。特に大きいのが、ほかの艇との間隔。不要に内なり外なりに艇を振って、ほかの艇および進入コースを窮屈にすることは、適正な間隔の維持に反しているために待機行動違反です。

さらに、待機行動中に他艇に接触する、他艇へ向けて転舵してコース取りの妨害をする、故意にエンストすることで助走距離を稼ごうとする、スタートラインまで150メートルを切った艇の内側に割り込む、一度ボートの先端をスタートラインに向けたにもかかわらず逆走するといった行為も、待機行動違反に数えられます。

これらの内容から類推できるとおり、外側の艇が内のコースを求める「前付け」を敢行した際、待機行動違反は起こりやすいといえるでしょう。

【斜行違反】
「不良航法」のひとつであり、競走中に無理な進路変更で他艇に不利を与えた場合、「斜行違反」が課せられます。これは競馬をご存じの方には、特に理解しやすい罰則といえます。

全24場はコースの広さも違えば、不良航法に関する規定も変わります。バックストレートでの斜行を認めているボートレース場と、認めていないボートレース場が分かれていると知れば、ボートレーサーにはそれぞれのコースの規定も覚えておく知力も大切だとわかるでしょう。

【追い抜き違反】
「不良航法」のひとつですが、「順位を上げるためには追い抜かないといけないじゃないか」と多くの方が疑問に思う罰則です。

実は、競走中に他艇を追い抜くのにもルールがあり、「後続艇は先行艇を左方向に見ながら追い抜くこと」が定められています。ただ、ほかのボートとの接触や妨害などのやむを得ない事情、さらには明らかに安全な間隔がある場合、この限りではありません。

あくまでも各ボートレース場の審判長を筆頭とした審判員が判定するため、ファンにはわかりにくい部分といえます。

それでも、ほかの艇に自分の艇を故意にぶつける「ダンプ」が過剰に使用されるのを避けるため、2020年4月1日より、ここまで説明した不良航法の事故点は-7点から-10点に引き上げられました。ダーティーなレースをする選手は許さない、という姿勢の表れといえるでしょう。

【優先艇保護違反】
次の項目で解説する落水、転覆、事故といった各種事故。体感速度120km/hで水面に叩きつけられたボートレーサーを救うため、事故が起きたらすぐに救助艇が水面に入り、航走中の他艇が事故水面に入らないように誘導します。

このとき、たとえうっかりであっても、競走しているボートは救助艇が活動している区画に入ることは許されません。整然と並んで、大回りをしてその水域を避けるように航走する必要があります。でないと、そこで救助中のレーサーに衝突したり、プロペラで切り刻んだりと、命の危険が生じるからです。

加えて、救助艇が出た場合、接戦になっていたとしても安全に並んで走らなければなりません。このとき、内側を走っていた艇に前へ行く優先権が与えられるにもかかわらず、外の艇が先に安全水域に入ることは、これもまた優先艇保護違反の対象となります。

もし優先艇保護違反を犯すと、たとえ完走したとしても失格扱いとなり、着順が入れ替わるパターンが生じます。加えて、当該開催では「賞典除外」となり、どんなに良い成績をあげていても、準優勝戦や優勝戦に進むことを許されません。人命の軽視は絶対にあってはならないからです。


妨害失格に関するもの

【妨害失格】
妨害失格は、これから紹介する落水、転覆、沈没などの事故を引き起こしたと認められる場合に認定され、事故点が付与されます。

ボートレースは互いの艇をぶつけあうことも珍しくありませんが、ボートは木で作られたとても繊細な乗り物であり、悪意のある度を越した体当たりは、公正なレースの妨げになります。

また、被害を受けた選手が外へ投げ出された場合、単に水面に高速で叩きつけられるのみならず、後続艇やコントロールを失った自分の艇によって命の危険に晒されます。

こうしたことから、たとえ先行艇を追い抜くにしても、できるだけクリーンかつスマートに、規定に則って抜き去ることが求められます。

【落水事故】
落水は、ボートは水面に残るものの、乗っていた選手だけが水面に落ちる事故を指します。後続艇のみならず、自分のボートさえも凶器となる危険性があり、とても危うい事故です。

【転覆事故】
転覆は、ある意味ではボートレースにおいて最もポピュラーな事故です。選手責任で起きやすい事故であり、まだデビューしたてのルーキーレーサーから、勝負駆けで限界ギリギリを攻めたベテランレーサーまで、あらゆる場面で生じます。

この場合、もちろん高速で事故を起こすので怪我のリスクはあるものの、ひっくり返った自分のボートが盾となって守ってくれるパターンもあります。

むしろ、困るのは普通に競走していた後続艇で、思わぬ被害につながることもあります。こうした「もらい事故」のケースを考えるとき、後ろから事故艇に突っ込んだ選手に帰する責任に乏しいと認められれば、選手責任外になります。

逆に、先に転覆した艇が選手責任であると考えられたなら、それは他艇を妨害したとみなされ、転覆失格のうえに妨害失格まで頂戴するという、踏んだり蹴ったりなことになります。

失格した選手は救助艇に助けられるわけですが、フライングや出遅れといったスタート事故と違って賭け金の返還がないため、未熟さゆえに転覆を起こした選手が、観客に頭を下げるようなシーンも見られます。

【沈没事故】
事故のなかではレアケースですが、ボートが沈没してしまうこともあります。これも競走が不可能になるので、失格判定です。

バターンとして多いのは、激しい接触を伴うレースを繰り広げたため、ボートに穴が開いてしまい、文字通り沈没するケースです。他艇との接触の状況などが吟味され、審判員が「誰の責任で事故は起きたのか」「妨害はあったのか」といった内容を、ほかの事故同様に審査します。


選手責任に関するもの

【選手責任】
【選手責任外】

ここまで何度も触れてきた選手責任と選手責任外。いずれも字面どおりの内容であり、違反行為や生起した事故について、関わった選手に責任があったのかなかったのか、審判員が判定します。

違反や事故というからには誰かに責任がありそうなものですが、「全員が選手責任外」で情状酌量の余地を認められるという珍しいケースもあります。それが「明らかに度を越した天候の急変」「突然の天災や停電などの避けられない事象」といった、人間では介在し得ない原因によるものです。

出遅れの項目で述べたとおり、浮遊物がプロペラに巻き付き、ボートが進まなくなるケースがありますが、これは荒天の最中、あるいは直後の開催では起きやすくなります。運営側も丹念に清掃や整備をしていますが、公営競技のなかで最も自然に近い性質を持つボートレースゆえ、予期せぬ事態はどうしても起こり得ます。

さらに、特異な水面のボートレース江戸川で起こりやすい事例として、「強風の中で開催を続けた結果、どんな選手もまともにレースできない状態になる」パターンがあります。

台風や大雪などの気象災害が起きやすい日本列島において、全24場は同一のリスクを背負っていると言えますが、あらゆる要素から荒れる水面で有名な江戸川に関しては、単に風が強いだけで波高が大きくなりやすい環境にあります。

主催者も天候の回復を待つなどして対応はするのですが、開催順延にも限界がありますし、中止を判断すれば大きな損失が生まれることから、軽々にその決定はくだせません。また、その開催でせっかく調子の良かった選手は、大きな賞金を得るチャンスを失うでしょう。

そうした事情から開催を続けた結果、もはや安定板を装着しようが、周回数を短縮しようが、まるでお話しにならないような状況が生まれ、「すべて選手責任外でペナルティなし」なる珍妙なケースに発展しました。これは主催者のミスではありますが、ある種の自然の強さを感じさせる事案でもあります。


トップレーサーはクリーンな走りをするからこそトップになれる

ボートレースでは、ここに挙げた以外の出来事も起きることがあります。接触によるエンジンストップからの不完走や、様々な理由による欠場、途中帰郷など、用語だけで考えると何が何やらでしょう。

ですので、当記事で示した「レース本番とその前後の事故点について」も含め、ぜひボートレース中継を見ながら、楽しみつつ覚えていくと良いでしょう。ひとつの中継に集中しているだけで、「○Rの△号艇××選手は不良航法のため-10点の減点」などという実況が「解きほぐされるように」わかってきます。

すると、選手たちがどのような戦略を立ててシリーズを戦い、予選を勝ち上がらんとしているのかが見えてきて、舟券戦略にも役立つでしょう。もちろん、賭けずにスポーツとして楽しむという意味でも、事故点と事故率を知ることはとても楽しいことです。

そうして見ているうちに、トップレーサーはそうそう事故点をもらうようなアクションを起こさず、知性的かつ美麗なテクニックを持っているからこそ、超一流でいられるのだという気づきを得ます。それはまた、「ボートレース(競艇)の再発見」とでも言うべき楽しみを、心のなかに芽生えさせてくれるのです。

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